CREATORS

藤野賢一郎

PROFILE

プロフィール
藤野 賢一郎
介護タクシー運転手/アーティスト
1967年 大阪府生まれ・在住

「伝える」ことが、生きることになった

20年前、スノーボード中の事故で脊髄を損傷。
一時は下半身不随を覚悟したが、奇跡的に回復。
その後、介護タクシーを立ち上げ、社会ともう一度つながる場を得た。

この経験を通して気づいたのは、
「どこで何を学んだか」より、「何を伝えるか」が生きる上で本質だということ。
だからこそ、学歴や経歴には意味を感じていない。
表現とは、肩書きや技術よりも「想いの深さ」から生まれるものだと信じている。

作品解説

作品名:「擬態」

gitai
立体アート作品(2025年)
理容椅子、鉢植ポニーテール、ウエーダー、アクリル板
H200×W70×D100

「擬態」が当たり前の時代。
SNSでは“いいね擬態”、職場では“空気読み擬態”。
環境が汚染され尽くした近未来、
人々は「胴長」と呼ばれる保護服を身にまとい、外見までもが進化してしまった。

その社会に、植物たちも紛れ込み、
「人間のふり」をして生きようとする。
だがその擬態はどこか少しズレていて──。

この作品は、そんな不器用な植物の姿を通じて、「多様性」や「自分らしさ」、そして「再生」について問いかける立体アート作品です。

背景にある物語:「生きているふり」

この作品の根底には、ひとつの物語があります。
それは──命の危機を経験しながらも、
「ふり」でもいいから他者とつながりたいと願う植物の物語。

それはそのまま、作者自身の過去と重なる「抽象的な自己投影」でもあります。

 

崩壊した世界の中で、それでも生きようとする力

他者との再接続を願う“ふり”の優しさ擬態という行為に潜む、切実な祈り

本作に込められたテーマは、20年前の事故で失いかけた命と、
そこから再び他者と関わろうとした作者自身の「再生の軌跡」から生まれたものです。

メッセージ

「生きているふり」──それは、ふりではない。
生きようとする力の、もうひとつの名前。

擬態してでも生き延びようとする植物の姿が、
いま“誰かのふり”をしながら生きている人に、
そっと寄り添うことを願って──。

 

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CAREER

経歴

遥か昔


大阪府鳥飼高等学校普通科卒業

2023年取引先の病院玄関で作品の展示開始
2023年茨木市ダイバーシティーアート展
2024年1月第50回現代美術-茨木
2024年7月心斎橋アイギャラリーグループ展
2024年12月茨木市ダイバーシティーアート展
2025年1月茨木市クリエイトセンターにて個展
2025年1月第51回現代美術-茨木
2025年6月第52回現代美術-茨木

 

作品の背景にある物語:「生きているふり」

ある朝、植物が目覚めてしまった。
音を感じ、光を読み、念じることで世界にわずかな干渉ができるようになる。

だが、ある夜。世界は砕けた。
閃光と地響きのあと、すべてが崩れ去る。

それでもその植物は、なお誰かと出会いたいと願い、
意志だけを頼りに、崩壊した世界を歩き始める──。

「生きているふり」は、「擬態」という作品の根底に流れる、もう一つの再生の物語です。

テーマと作者背景

本作の根底には、
作者自身の脊髄損傷による生死の境界体験(20年前)と、
人類の未来──核の危機や環境破壊への警鐘が、抽象的に織り込まれています。

「生きているふり」=再起の記録
命の危機の中で芽生えた「もう一度つながりたい」という願い。
それは、たとえ“ふり”であっても、確かに生きようとする力でした。

「擬態」=生き延びるための術
擬態は否定ではなく、柔軟な進化。
現代を生きるすべての人が、どこかで身につけている“生存の知恵”なのかもしれません。

 

作家より

「ふりでもいいから、生きたい。」
「言葉にならなくても、誰かとつながりたい。」

一度すべてを失いかけたときに浮かんだこの思いが、
自分にとっての“再生”の始まりでした。

この作品は、そのときの記憶と、祈りのかたちです。
「壊れた世界でも、なお他者とつながろうとする力」を、
誰かにそっと届けられたらと願っています。

 

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