CREATORS

リリー・オカモト

PROFILE

プロフィール

生まれ育った田舎に10年近く海外を点々とした後戻り、根を張りながらも、世界を旅しながら接点を持とうとする。東から西へ、右から左へ、上下へ──政治的にも物理的にも、そして視点と立場によって階級をも行き来する。その経験が静かに沈殿した抽象表現の奥から、私は感覚の欠片をそっと取り出し、文字と画のあいだを行き来させる。そこに立ち上がる〈間(Ma)〉を通じ、鑑賞者と知的に遊ぶことを試みる。西洋との関わりから浮かび上がる東洋哲学的な揺らぎ、文化的品位を互いに求める行為の滑稽さと愛すべき憧れ──その「いとおかし」な文化の往還の中で生まれる微細な変容を、共に立ち止まらないかと問いかける。




Uki Series 









「Uki」シリーズは、2024年に志摩市の複合施設うみらぼで自ら企画・実施したアーティスト・イン・レジデンスから生まれた。海に浮かぶブイや、水面に映る空と海が反射によって区別できなくなる光景をモチーフに、〈見えているもの〉と〈観えているもの〉の間に生じる感覚を探る。シリーズ名の「Uki」には、ブイを意味する“浮”と、江戸時代の庶民文化を映し出した「浮世(浮世絵)」の二重の意味を込めている。滞在中に訪れた伊勢神宮美術館で出会った浮世絵のタッチが、この両義性にたどり着くきっかけとなり、一部の作品にその影響が反映されている。文化や立場、時空を行き来しながら揺らぎ続ける存在であることが制作を通して繰り返し問われるが、ここで繰り返し描かれるブイは、流れに抗わず、揺らぎながらもそこに在り続ける象徴として、鑑賞者に“自分の速度で在る”感覚を促す。









Mirror Series - Repetition of Import/Export


この作品は、キャンバスに絵の具を配置し、その上に別の紙を重ねて転写する技法を用いている。版画的なプロセスを持ちながらも、型を固定しないため、転写のたびに微細な変化が生じる。さらに、その転写物に新たな紙を重ねることで、映し取られた像が時間の中で増幅・変容していく。本作が生まれるプロセスは、作家自身が結果を想像せず、制作の中で形が立ち現れていくことに根ざしている。どのような像が現れるのかは、完成まで予測できない。それはまさに「鏡的な現象」であり、作品が作家の内面を映しているともいえるし、そうではないともいえる。そして、その解釈は鑑賞者に委ねられ、見る者の内面によって異なる意味を持つ。

鏡は文化によって異なる象徴性を持つ。日本では、鏡は三種の神器 (八咫鏡)の一つであり、「神聖な存在と繋がるもの」とされる。しかし、作家自身は神道の鏡を意識して制作したわけではない。それでもなお、自身の文化的背景が無意識のうちに反映され、この作品は結果的に「Mirror」と名づけられたのかもしれない。

一方で、西洋において鏡は「虚栄」や「自己認識」の象徴とされる。白雪姫の王妃が鏡に問いかけるように、またはギリシャ神話のナルキッソスのように、鏡はナルシシズムの象徴でありながら、同時に自己と向き合うことを強いるものでもある。

また、社会学者チャールズ・クーリーが提唱した「鏡中自我(Looking-Glass Self)」の理論によれば、人間の自己概念は他者の視線を通じて形成される。この作品もまた、鑑賞者がそれを見ることで、「誰かの視線を受けたときの自己認識」の感覚を呼び起こすのかもしれない。作品が自己を映すとき、それは単なる反射ではなく、見る者の意識とともに変化する。

本作の技法とコンセプトは、いくつかの現代美術の流れと共鳴する。アンディ・ウォーホルのシルクスクリーンは、大量生産的な複製と、その中で生じるわずかな変化を扱う。本作の転写技法も、似たプロセスを持ちながら、手作業による偶発性を取り入れている。オラファー・エリアソンの光学的作品は、鏡や光を用いて視覚体験を拡張し、鑑賞者の知覚を揺るがす。本作の転写による変容は、鏡に映る像が同じでありながら決して同じではないことと通じる。村上隆のスーパー・フラット理論は、日本の複製文化とオリジナルの概念を問い直す。本作もまた、転写によって「オリジナルと複製」「現実と映像」といった境界線を揺さぶる。

本作品は、「個と複製」「原型と変化」「現実と反映」の関係性を探求する。そして、鑑賞者がどのようにこの作品と向き合うかによって、その意味は変容し続ける。

About Lily Okamoto
2012年、アメリカ・カリフォルニア州にてビジネス・マーケティングの学位を取得。約10年間の海外生活とITスタートアップでのプロダクトのマネージメント経験を経て、2022年にそのキャリアを手放す。スタートアップではゼロからイチを生み出す環境に身を置き、やがて会社の成長とともにイチを百にすることが主な役割となった。振り返れば、私はゼロから何かを汲み取り形にする過程を愛していたのだと気づく。そして作家活動を始めた今、その汲み取ったものを通して他者と問いを交わすことが自分の核であると実感している。
その問いは必ずしも平面作品だけで完結するものではない。絵画を起点に、空間のキュレーション、ストーリテリング、アートブック、デジタル、インタラクティブな体験など、複数のメディアを横断して形を探ることで、より多層的な感覚や視点を観客と共有する。こうして私は、自らを平面画家にとどめず、Multi-disciplinary artistとして活動している。

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CAREER

経歴


















Upcoming

Solo Exhibition: ISE MIYAMACHI HOTEL - Ise, Mie | 2026 Jan
Archive Exhibition of Artist in Residence at UMILABO - Iga, Mie | 2025 Nov
Exhibition: CCBT: Future Ideations Camp Vol.6: Reclaiming the city Beneath Unseen Rules - Shibuya, Tokyo | 2025 Aug

2025
Art Event: In the Sway, Steering True at UMILABO - Shima, Mie | 2025 Jul
Exhibition: Art Bash at Streamer's Coffee Tenma - Osaka | 2025 Mar
Exhibition: CCBT: Future Ideations Camp Vol.5: Can AI be a LIFE? - Shibuya, Tokyo | 2025 Jan

2024
Solo Exhibition: Love in Abstract - Art Gallery Kitano - Kyoto | 2024 Jan
Solo Exhibition: The Power You Hold - Unimocc Art Cafe Gallery - Osaka | 2024 Jun

2023
Solo Exhibition: East West Right and Left: Seasons of Abundance and Travel・France - Mie | 2023 Nov
Duo Exhibition - Breathing: Lily Okamoto / Yuri Davison - Kyoto | 2023 Apr

Artist in Residence
Umilabo Artist in Residency - Shima, Mie | 2024 Aug

Art Book Fair
(Made Anywhere) Art Book Fair - Paris, France | 2025 Sep
I Never Read Art Book Fair - Basel, Switzerland | 2025 Jun
MORIMICHI ZINE’S FAIR - Aichi | 2024 May
NAKANOSHIMA ZINE’S FAIR - Osaka | 2024 Apr

















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